Lesson9 ここで差がつく 〜気がつく人、鈍い人〜

講義
声の表情、基礎表現、言葉の選び方、レスポンスと学んできたが、ここまではある程度社会人をやっていれば大抵見につく。そこから先で、対人能力があると言われる人とそうでない人との間で、大きく差がつくのは気づかい。また、傾聴の精神を突き詰めれば、気づかいに行き着く。相手の言葉の上っ面を聞くのではなく、その本意を知ろうとするのが傾聴で、意図を知ってはじめて、その意図に対して応える。言葉にはしていない要求に対して、気をまわすことができる。

気づかいができるできないは2つの要因によって決まる。人間性(自分のことしか考えていないか、人を大切にする気持ちがあるか)と感性(敏感か鈍感か)。感性は能力差がでる部分だが、人間性とは基本的な心構えの問題だ。気づかいができるどうかは、言い換えれば、自分のことしか考えないか、他人のことまで考えているかの違いとも言える。まずは、人を大切にする気持ちを持つのが大前提だ。その上でじっくりと感性を磨いていこう。では、具体的な例を見ながら、気がつく人と鈍い人との違いを見ていこう。

鈍い人は自分の関心事しか語らない。相手の気持ちになれば同情する気持ちがわいてくるはずだ。さらに相手の立場にたって協力しましょうかという姿勢を表現すれば、気がつく人という評価になる。
Cは鈍い人、Bは普通の人、Aは気がつく人。

@
「最近めちゃくちゃ忙しくって」
C−そうですか。
B−大変ですね。
A−大丈夫ですか? 何かお手伝いできることはありますか?

解説: 先方に手伝ってもらおうという意図がないにしても協力的な 姿勢は嬉しい。例え口だけの申し出だとしても好意が感じられる。

A
忠告されたとき
C−わかってます。
B−ご心配無用です。
A−ご心配して下さってありがとうございます。わかっているつもりですが、改めて 気をつけます。

解説:忠告を素直に聞くというのも相手への誠意であることに気づきたい。忠告するには勇気もいるし、気もつかう。だからその気持に善意でこたえよう。忠告や注意をする側も感謝されると嬉しい。それも好意や誠意の見せ所だ。

B
相手の主張を聞いたとき
C−すぐさま自分の主張を始める。
B−なるほどですね。
A−なるほど。素晴らしいですね。

解説:主張にせよ、過去の経歴にせよ、現在の状況にせよ、自分について語るというのは、自己顕示欲の現われであるから、感心するのが相手の意図に沿う反応。相手のことを聞き流して、自分のことを語るというのは、自己顕示欲に自己顕示欲で対抗するようなものである。

C
「こんなひどい目にあったんですよ」
C−そうですか。
B−お気の毒です。
A−ひどいですねえ、それは。許せませんねえ。

解説:自分の思い同情してもらえると心理的な距離がぐっと縮まる。

D
「○○さんいますか?」
C−いません。
B−いません。昼からの出社になっています。
A−いません。昼からの出社になっています。もし私でよければ要件をお伺いしましょうか?

解説:いますか?という質問にいませんと答えるのは、言葉の表層に答えているだけの事務的な対応。相手の意図・目的は何かというところを考えて、その意図・目的を満たそうとするのが誠意。

E
電話で長時間待たせるとき
C−待たせたまま。
B−すみません。もう少しお待ち下さい。
A−大変お待たせしております。もう少しかかりそうなので、もしよろしければ、こちらからかけなおさせましょうか。

解説:逐一最新の状況を伝えて、その都度相手の意向を伺うというのが思いやり。 この事例に限らず普段の業務のなかでも、状況が変化しているにも関わらず、それを伝えずに「最初に聞いた指示以降、新たな指示を聞いていません」というのは、誠意のある対応とは言えない。

F
「○○課ですか?」
C−違います。
B−いえ、こちらは△△課です。○○課は内線10番です。
A−こちらは△△課ですので、○○課におまわししましょうか?

解説:相手の手間を少しでも省いてあげようという思いやりが感じられる。自分のことを丁重に扱ってもらっているという自尊心も満たされる。

G
「これ知ってる?」
C−知りません。
B−すみません。知りません。何なのでしょうね。
A−私にもわかりません。調べてきましょうか?

解説:力になりましょうかという気持ちがうれしい。

H
「○○できますか?」
C−できません。
B−申し訳ございませんが、できません。
A−申し訳ございません。それはできないのですが、○○ならできます。いかがいたしましょうか。

解説:これも言葉の表層に対する返答ではなく、その裏にある意図・目的を汲んだ対応の例。○○できるかできないかと聞くときは、その裏に意図・目的があって○○は単に一手段である場合がほとんど。そういうときに、他の手段を提示してあげるのが親切。

I
自分の担当ではない場合
C−私の担当ではありません。
B−すみませんが、その担当は私ではなく○○になります。
A−その担当は私ではなく○○になりますが、聞いて参りましょうか?

解説:自分の事だけ考えているか、相手の立場に立っているかの違いの典型例。

J
「これ問題だな。なんでこうなってんの? 困るなあ。」
C−私はやってません。
B−さあ、なんででしょうね。困りましたね。
A−すみません。すぐに直しておきます。

解説:同じく、自分の事だけ考えているか、あいての立場に立っているかの典型例。

K
相手がきょろきょろしたとき
C−構わず話しまくる。
B−いったん話をとめる。
A−何かお探しですか?

解説:電話の応対ではなく対面での場合になるが、典型的な気づかいのケースなので、挙げておく。

L
相手が考えこむ表情をしたとき
C−気づかずに話しまくる。
B−いったん話をとめて、様子を伺う。
A−何か気になる点がございましたか?

解説:同じく対面でのケースだが、これも典型的なパターン。自分のことしか考えていないと、相手の反応にお構いなしに延々と話続け、非常に一人よがりな会話となる。そういう場合は、話している方が気持ち良いが、聞いている方はその鈍感さにうんざりする。さらに相手がうんざりしているという雰囲気さえも気づかず、話じゃくり、相手から嫌がられるとこまでいってしまう痛い人もよく見受けられる。