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第 4 章 独占組織規定



機能分担と組織力

1、そもそも機能分担は何のために行うか?

そもそも組織はなぜ機能分担を行うのだろうか?
例えば、技術者が独立して個人事業を始めるとする。ところが技術は高いが対人がまるで苦手。営業なんて全然できない。結局まるで売上は上がらない。。。一方で、営業は得意だけど技術がない人がいる。この人も一人では経営が上手くいかない。ところが二人が一緒に組むとどうなるか?一人一人が別々にやっていた結果を足したよりも、はるかに大きな成果を出すことができる。1+1=2ではなく、3にも4にもなる。これが組織力の原点である。
逆に言えば、他の誰がやってもできないような高度な専門能力を持った人やグループ(これが「スペシャリスト」の意義)が集まった組織は、みんなが同じような種類の能力を持った組織よりも強い。しかし、いくら多様な能力を持った人が集まってもバラバラに動いていたのでは、プラスどころかボロボロである。そこで、それぞれの機能が統合的に動き、全体として最大効果を発揮できるよう指揮する人(これが「ジェネラリスト」の意義)がいて、初めて機能分担は成功する。

2、担当職務のレベルが高ければ良い。万能じゃなくても構わない

一人の人がすべての機能を一人でやるよりも効率が良いから分担する。例えば、全社員が自分の仕事の経理を兼ねるよりは、経理の専門家に集中させた方がクオリティも高いしコストも安い。各々でコンピューター環境整備のアウトソーシングを頼むより、会社としてシステム部門を持つ方がクオリティも高いしコストも安い。技術面は技術者に任せて、営業は営業部門に任せた方が良い。これが組織の意味である。だから、誰もが能力について万能である必要なんか全くない。営業力があれば論理性が弱くても構わない。技術に強ければ、挨拶が明るくハキハキしてなくても結構。企画ができるなら細かい作業がミスだらけでも結構。事務が仕事なら創造能力がなくてもいい。組織の中で期待されている機能を立派に果たせるなら、見事に有能な社会人である。そんな人に他の能力が欠けていることを偉そうに批判する奴がいたら、そいつこそが自分の前の籠だけ見て、背中の籠が見えていないバカ野郎だ。そんな勘違い野郎は叩いて良し。

3、 だけど、あららら。スペシャリストについてよくある勘違い

  1. 知識があればそれで偉い?
    違う。知識があっても、実行して成果(経済価値)を生まなければ何の意味もない。できないことをできないというだけなら価値なし。それなら何も知らずにチャレンジする素人の方が、可能性がある分だけ価値がある。一般人にはできないことをできるところにスペシャリストの価値がある。
  2. 自分は専門家だから、他のことは一切関知しない
    それがその分野で成果を生むために関係のないことであればその通りだが、成果に関係するならば無関係ではいられない。例えば、商品開発者が「自分は開発するのが仕事だから、売れるか売れないかは知ったこっちゃない」といい、営業が持ってくる顧客の声に耳を貸さないというケース。このような人は、スペシャリストとしての能力について勘違いしている。商品開発者は、売れる商品を開発することが仕事である。売れる商品を開発することも含めて開発能力である。売れない商品を開発しても平気な開発者は、「マーケティングには関知しないが、開発のスペシャリストとしては能力が高い」ではなく、「開発のスペシャリストとして無能」なのである。能力のある開発スペシャリストであれば、市場のニーズに強い関心を持ち、売れる商品を開発しようとするはずである。大谷さんはそこが凄い。あれほどに高度な専門技術を持ちながらも、技術についてはど素人であるユーザーたちの声を、貪欲に求め、敏感に感じとり、極めて謙虚に開発に反映させる。
4、 独占組織とは

というわけで最大の組織力を発揮できるよう、機能別に社内最高のクオリティ・コストパフォーマンス・スピードを持った部署を設置するのだから、専門的な機能を持った部署に全社の機能を集中させる必要がある。経理業務は経理部に、システム業務はシステム部に、製造業務は製造部に、営業業務は営業部に、人事業務は人事部に。。。そして権限も集中させる。経理処理の決定権限は経理部に、システム導入の決定権限はシステム部に・・・というふうに業務と権限を排他的に集中させる。事業領域の独占も同様である。特定の事業を社内で独占的に行う部署に、会社にきた顧客からの問合せはすべてまわす。このような部署を「独占組織」と呼ぶ。各分野で最高のレベルを持った独占組織が、各自の分野の役割を一手に担うことによって、会社は全体として強力なパフォーマンスと効率を発揮する。が、しかし…!

5、 統制が効かなければ、最低の烏合の集

機能別に分化した組織が、組織のデザイン通りに組織力を発揮するためには、トップ(中央)からの統制が強烈に効いていることが鉄則である。機能別に分かれた組織が、全社目的を考えずにそれぞれ好き勝手に動いていては、単に各機能がセクショナリズムで硬直し、組織力を発揮するどころか、バラバラのグチャグチャの烏合の集となる。

6、 独占組織は、社内最高レベルを維持するために弛まない研鑚を

独占組織は、その担当分野において、社内で最もレベルが高いことを前提として設置される。担当業務を社内リソースで行うにせよ、社外リソースへの外注を手配するにせよ、クオリティ・コストパフォーマンス・スピード・利便性等すべての要素において社内最高でなくてはならない。他のどの部署・個人が自力で行うよりも上でなくてはならない。そしてその社内最高レベルを維持するために、その道のプロとしての意識・創意・技術・知識を弛まなく研鑚し続けねばならない。

7、 独占組織が会社機能の弊害になる日

独占組織が自己研鑽を怠り、業務と権限を排他的に集中させる独占組織が、社内で最高のパフォーマンスではなかったらどうなるか?他の部署が独自に行う、または個別に社外へ外注する方が、クオリティが高かったり、コストが低かったり、スピードが速かったり、手間が少なかったらどうなるか?それでもなお、社内での独占組織に業務と権限を集中させ続けたらどうなるか?全社業務をベストに機能させるための独占組織が、一転して全社業務のレベルを落とす、麻痺させるといった弊害と化す。独占組織に業務や権限を集中させていることが逆に会社の首を絞める。全社業務のボトルネックと化すのだ。独占組織がなければもっと良い結果になるのに、独占組織があるがばかりにミスミス会社として損失を生む。

8、 業務と権限の集中は、特権ではなく、全社機能を最高にするための手段

つまり、組織における横の業務と権限の集中、つまり独占組織は、縦の上長の指揮命令権限と同じく、全社として最高のパフォーマンスを実現するための手段である。まかり間違って、業務の権限の集中がいたずらに特権と化し、全社のパフォーマンスを押さえ込むために使われたら、もう“死”である。独立組織はそこを肝に銘じておかなければならない。もう一度繰り返す。業務と権限の集中は特権ではない。全社として最高のパフォーマンスを実現するための手段である。

9、 自社調達とシナジーの幻想

独占組織は社内唯一の専門リソースである場合が多いので、社外に出すくらいなら自社でやろうという意味であることが多い。他社に頼むより、自社でそういう部門を作るとマージンの分だけ安くなる。シナジー効果の発想である。そして自社部門をつくった後は、折角自社の部門があるのだからそれを利用しないと損ということになる。ところが実際には、そのような自家発電で賄うマージン率の節約分よりも、本来なら利用することができる外のレベルの高いものとの差の方がはるかに大きい場合が多い。クオリティが高い・コストが安い・スピードも速い。自社モノにこだわる情熱が、逆に会社機能や業績のボトルネックになっていることに対しての盲目状態をつくるのである。そのようにボトルネック化した組織を放置するトップは、自社リソースを利用することによって効率化するという幻想に憑かれたままに、組織を腐らせるのである。これは組織がかかる致命性の難病だろう。

10、 独占組織を健全に機能させるための規定

ということで、独占組織がボトルネック化するのを防止し、本来想定されている最高の全社パフォーマンスを実現し、維持し、常に進化し続けるような体制を築くことを目的として、この「独占組織規定」を制定する。



第 17 条 【独占組織の指定】

社内において、特定の事業または機能を全社的に独占する状態にある部署を「独占組織」として指定する。

第 18 条 【独占組織の義務】

独占組織は、その独占する事業または機能の分野については、クオリティ・コストパフォーマンス・スピード等すべての要素において、社内最高レベルでなければならない。また最高水準を維持するために、その道のプロとしての意識・創意・技術・知識を弛まなく研鑚し続けねばならない。

第 19 条 【ダウト申請】

前条にも関わらず、独占組織が担当している事業または機能のレベルが低く、当該独占組織に機能を集中させることがかえって全社業務のマイナスになっているという疑いが生じた場合は、役職・資格に関わらず何人であっても、直接社長宛に当該独占部署についての「ダウト申請」を行うことができる。

第 20 条 【ダウト申請の要件】

ダウト申請を行うには、「ダウト!」と叫びながら、独占組織以外の社内の部署または個人によって、直接社内外リソースを使用して当該業務を行う方が、より高いクオリティ・コストパフォーマンス・スピード等を得ることができるという実例を最低1件以上報告しなくてはならない。

第 21 条 【ボトルネック化組織への是正措置】

会社はダウト申請の受理後、速やかに検証委員会を設置し、検証委員会は設置後1ヶ月以内に検証を行わねばならない。検証委員会が被ダウト独占組織が全社業務のボトルネック化を結論付けた場合は、会社は委員会からの報告後1ヶ月以内に当該独占組織に対して、独占権の剥奪、部署の解散、責任者の異動、対抗組織の設置、監査組織の設置等の適切な是正措置をとらねばならない。



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