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第 1 章 組織理念

-目的: 最大限に個を活かしながら、最低限の秩序を守る組織を創る-

【最大限に個を活かす】

•  機会平等を徹底する
  全社員が平等に機会を持てるよう徹底する。やる気があるのに、学校、経歴、肩書、容姿、国籍、性別年齢、肩書、家柄、貧富、知識、経験など、ありとあらゆる形式的な属性を理由にチャンスを閉ざすことはしない。「何を選択するか」という心の姿勢(→ My Choice )によってチャンスを制限することはある。
  なお、機会平等の反対の結果平等(生産性に関わらずみんな同じ待遇にする)は、明確に否定する。生産性が違うのに同じ待遇にすれば、その待遇のラインより生産性が高い人は損なので去って行き、生産性が低い人は得なので集まって来る。すると生産性は落ち、待遇は落ち、さらにそのラインより生産性の高い人は去り、低い人が集まる。以下その繰り返しで、どこまでも生産性は落ちて、最後は必然的に崩壊する。

•  多様性は力である
能力・キャラ・価値観・経験・仕事スタイルなどの個性があること(多様性)をもって、良しとする。皆同じでなくてはならないという価値一元主義は、組織滅亡の道である。生物の進化論的にも多様性を失った種は絶滅しやすい。バラエティはあった方が良い。会社秩序を壊したり、人を意図的に傷つけたりしない限り、個性は大切にする。

•  自由・自立・自己責任を旨とする
官僚主義・封建主義を嫌う。社員自らが考え、自らが行動できるよう、不要な組織的制約を限界まで避けて自由な組織を指向する。社員は、経済的・社会的・精神的な自立(→ 3 つの自立 )ができていることを前提に組織・人事制度を設計する。手取り足取り小うるさいことはいわない分、各自の考え・行動の選択には責任を持ってもらう。(→ My Choice

•  「出る杭は引き抜く」ポリシー
決められた方針、上長の考え、既存のやり方などに文句があっても、指揮命令系統や意思決定権限は遵守せねばならない。しかし、下からの見方の方が正しいことも往々にしてある。世の大きな進歩は異端から生じることも多い。だから、信念と覚悟のある反対意見なら大いに結構。「今のやり方はおかしい。私だったらもっと上手くできる」という人には、「ならやってみろ」と抜擢する。その信念を実績で証明してもらう。

•  思いやりと寛容の精神
封建的な組織は個をつぶす。言いたいことは言える、聞きたいことは聞けるという風土が大切だ。それを可能にするのは、思いやりと寛容の精神である。

•  柔軟性
ルール・マニュアル・業務指示は遵守せねばならないが、それが逆に硬直的なデメリットを生むのはまずい。明らかに現実に合わないケースについては、一定の要件をもって臨機応変な対応ができるようにすべし。

•  スピード
意思決定は、然るべき者によって然るべき検討が十分になされなければならないが、そのために、逆に業務に支障をきたすほどスピードが遅くなってはならない。

•  簡素化
管理統制を行うためには書類・手続き・規則が必要だが、これらを限界まで簡素化する。

以上が「最大限に個を活かす」だが、いくら個性を尊重するといっても、会社に著しく迷惑な個性を許容するわけにはいかない。自由な組織といっても、各自が思い思いに物事を決めたり、好き勝手に行動したりしていたらめちゃくちゃになる。組織として最低限の秩序は必要である。

【最低限の秩序を守る】


•  職務権限
意思決定権者の決定・業務上の指示命令には服さねばならない。決定や指示に背いて勝手に思い思いに意思決定や業務を行ってはならない。

•  社内ルールの遵守
規定やマニュアルは、散在する知識やノウハウをみんなで共有することで、業務の効率化や事故の防止を行うものである。遵守せねばならない。

•  仕事の価値を測る尺度
直接数字で見える仕事だけではなく、直接数字にはならないが間接的に誰かに貢献しているサポート的仕事や、今現在は結果は出ないが将来的に成果となる投資的な仕事も、価値として認める。しかしいずれの場合も、仕事の評価は、仕事の依頼者(顧客、他部署、上司、会社)が認める経済的価値で行う。

•  組織秩序を乱す、または著しく他人に迷惑な言動は許されない
会社に経済的な損失を与える行為、指揮命令系統に背く言動、士気をくじいたり、人心を乱す言動は許されない。また、他の社員に著しく迷惑をかける、または傷つける言動も許さない。社員はどの一人も私にとっては大切な存在だ。社員同士で争うのを見るのはとても心が痛む。社員のどの一人に対しても不当に傷つけることは、私自身を攻撃するのと同じだと思って欲しい。

•  「憎悪」と「対話の拒否」は無条件禁止
  人は十人十色の価値観を持つ。誰もが自分が正しいと信じることが最も正しいと思っている。「自分には知らないことがある」と謙虚な姿勢で人の意見を広く聞き、学び、成長するのがベスト。だが、なかなかプライドが邪魔してそうはいかないこともある。それを許さないとはいわない。俺だってときどき意地を張って不本意なことをいったり、自分が正しいと思いこんで間違った判断をすることがある。
  いろいろな価値観があった方が健全だし、仕事においても何が正しくて何が間違っているかなんて、そうそう断言できるものではない。会社として決定したことが実は間違っているということも十分に有り得る。だから、会社の決定とは違う意見を持つことも全然悪いとは言わない。
  しかし、絶対にやってはいけないのは、他の社員に「憎悪」の感情を表わすことと、相互理解のための「対話を拒否する」ことだ。戦争はどちらが正しくてどちらが悪かという問題から生じるのではない。正義と悪という構図で平和を語ろうとしても永遠に戦争はなくならない。戦争を起こす張本人はどちらも自分が正義で相手が悪だと思っている。結局、戦争を起こすのは、「憎悪」と「対話の拒否」という独善的かつ排他的な精神である。憎悪を示すこと、対話を拒否することは、それ自体が既に暴力なのだ。戦争は特別な状態ではなく、戦争を起こすのは何も特殊な人々でもない。普通の人の心の中の日常の中に戦争の原因がある。「あいつが間違っている。話しても無駄だ。やっつけるしかない」という態度。沸々と沸きおこる「憎悪」と「対話の拒否」への誘惑。戦争を起こす悪魔は我々の心の中にいる。
  そして戦争をなくすのは、一方的に自己の主張を通したくなったときに相手の立場を考える「思いやり」と自分と違う考えや価値観にムカつくときにその存在を許容しようとする「寛容」の精神である。平和を守る天使は我々の心の中にいる。
  したがって、組織秩序を乱す言動をしない限り、どのような価値観や考えを持とうが多様性として良しとするし、正しい可能性があるものとして尊重するが、この 2 つ、「憎悪」と「対話の拒否」だけは、社内では一切許さない態度として明確にしておく。平和を乱す態度として撲滅する。世界を平和にするのは無理かも知れないけど、せめて社内だけは平和にしたいじゃないですか。




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